治具とは何か?定義や種類、役割、メリット、選び方・製作事例を紹介
治具 (ジグ/jig)とは、機械加工の際などにワークを固定・保持するための補助装置です。機械加工の際にワークが動かないよう固定するだけでなく、検査や測定の際にワークを保持するなど、製造現場のあらゆる場面で欠かせません。
一方で治具の種類は幅広く、治具の定義もまちまちです。そこで、50社以上の治具製作に携わる静岡県・愛知県の工機メーカー不二工機製造(FS WORKS)が、製造業関連の皆様に向けて治具の知識をわかりやすくお伝えします。
目次
治具とは、ワークを固定し工具や作業位置を指示する補助装置のこと
治具は、機械加工や検査、測定、組立などを効率よく一度に多く行うために用いられる補助装置のことです。もともとは、機械加工の際などにワークが動いてしまわないよう、ワークを固定、保持するための装置として発達してきました。
治具には、所定の位置にワークを取り付ける役割があるほか、加工具や検査具を正しい位置に案内する役割もあります。つまり治具とは、位置決め機構と締め付け(クランプ)機構を持ち、工具を正しい位置に案内し、目的の作業を行うための工具であるといえます。
治具の構成要素
- ● ワークが位置決めされる機構
- ● ワークの締め付け(クランプ)
- ● 工具の案内(工具の位置決め)
- ● 治具を工作機械や作業台に取り付けるベース
治具を用いる目的とメリット
治具を用いる目的は、誰でも同じ作業を簡単にできるようにして量産性を向上することです。治具にワークをセットするだけでワークや工具の位置決めを即座に行うことができ、手作業で行うよりもはるかに多くのワークを一定品質で仕上げることができます。
もし治具がなければ、位置出しや段取りに多くの時間がかかってしまうほか、作業者のスキルによって品質もばらついてしまいます。大量生産を叶えるためには、治具の製作・使用が欠かせません。
治具を使うことで量産性が向上する理由について、以下4つのポイントで解説します。
- 1 .品質と精度が向上および安定する
- 2 .作業が簡素化される
- 3 .生産速度が向上する
- 4.ヒューマンエラー・バラツキが減る
1.品質と精度が向上および安定する
治具がワークをしっかりと固定し、工具を正しい位置に誘導するので、作業精度が一定になります。これにより機械加工や検査、測定といった作業の精度が安定し、製品の品質向上につながります。
2.作業が簡素化される
治具により作業工程の一部が省略、自動化されて作業自体が簡素化されます。たとえば簡単な穴あけを考えると、治具にワークをセットし、工具の位置を決めたら、レバーを押すだけといったイメージです。治具を使わず加工を行うときには必要なケガキやポンチ穴加工といった作業は省略されます。
上の写真は穴位置検査治具です。突起部分の寸法精度が出ているため、加工が終わった円形リング状のワークを乗せるだけで精度判定が行えます。
3.生産速度が向上する
治具を用いることで作業が簡素化、効率化されるため、生産速度が格段に向上します。治具を使わず加工を行う場合に必要な段取りや位置決めといった作業がなくなり、単純作業の繰り返しに移行できるためです。
4.ヒューマンエラー・バラツキが減る
治具がワークの位置とツールの位置決めを行うので、手順を守れば誰もが同じように作業できるようになります。集中力を要する作業や難易度の高い作業ほど、ヒューマンエラーや作業者によるバラツキが起きやすくなりますが、治具を用いることでそうしたミスを大幅に減らせます。
治具の種類とそれぞれの役割
治具は、製造業のさまざまな業界において、生産工程のあらゆる場面で用いられています。作業を安定的かつ効率的に行うための補助具全般を治具と呼ぶため、作業目的に応じてさまざまな種類がありますが、ここでは代表的な治具の種類を例示します。
加工用ワーク固定治具(加工治具)
加工治具は、ワークを加工する際に用いる治具です。ワークを載せるだけで位置決めができるほか、ワークの基準面(基準点)を決めるという重要な役割を担います。基準をしっかり決めることで他の加工の精度が向上します。
測定用ワーク固定治具(測定治具)
測定治具は、三次元測定機をはじめとする測定機器を使った品質検査時に、ワークを固定し測定を容易にするための治具のことをいいます。測定しやすい姿勢でワークを固定することで作業を効率化できます。
検査用ワーク固定治具(検査治具)
検査治具は、製品や部品の寸法・角度・形状などの良否判定を効率的に行うための治具です。治具にワークをセットするだけでOK/NGを判定するものや、検査ピンなどを差し込んで穴位置や穴径の精度を簡易的に確認できるものがあります。
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組立用ワーク固定治具(組立治具)
組立治具は、組立作業を安全に効率よく、高精度で行うための治具です。ワークを定位置に固定し、部品の組付けや抜き差しなどの作業を容易に行えるようにします。
上記のほかにも溶接治具やめっき治具、塗装治具、熱処理治具、曲げ治具、カシメ治具、など、作業・加工の種類別にさまざまな治具が製作されています。
複数の加工に対応した汎用治具や大量生産を叶える治具の設計製作例
工作機械での加工に必要な加工治具や、治具を使用した大量生産の効率化などの事例をご紹介します。
カセット化により複数の加工に対応した加工治具の例
カセットのように取り外しできる子治具を数種類製作しました。マシニングセンタに付属している親治具はそのまま残し、子治具を切り替えるだけで複数の工作加工に対応できるようにしています。
似たような形状でありながら、位置決めやクランプの場所が違う複数種類の製品を、最小限の段取りだけで加工できるようにしています。これによりお客様のリードタイム短縮につながりました。
- 【製品(ワーク)】シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ミッションケースなど
- 【お客様からのオーダー】指定のクランプ力やクランプ位置に沿った治具の設計および製作
- 【導入後の効果】個々のワークごとに専用治具を製作するより、大幅なコストダウンが可能になりました。複数のワークに対して最小の段取り回数で加工できるように意識しています。ワークの形状と工具干渉を考慮し、歪を発生させない安定した最適な位置に基準座を取りました。クランプは3点とし、クランプ力やクランプ位置を工夫して安定性と安全性を叶えました。
アルミダイキャスト製品の面削加工や穴加工を効率化した加工治具の例
アルミダイキャスト製品に面削加工や穴加工を効率化した加工治具です。複雑形状のワークでしたが、当社で位置出しを行い、工具が治具に干渉しない設計製作を行いました。これによりお客様のリードタイム短縮につながりました。
- 【製品(ワーク)】シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ミッションケースなど
- 【お客様からのオーダー】1回段取りですべての加工が完了できること
- 【導入後の効果】クランプ形状やワークの固定姿勢を検討し、ツールパスの干渉がないように設計しました。
治具の設計・製作におけるポイント
治具は、特定作業を効率化し、量産性を高める装置です。そのため、治具の目的を明確にすることが治具の設計・製作のスタートとなります。次に、作業特性にあわせた治具の設計が必要です。その際、使用環境や目的に応じて治具の素材を選ぶことも重要になります。
治具の精度は、ワークの加工精度に直結します。そのため、ワークと工具はもちろんのこと、加工工程までをしっかり把握し、目的にかなった治具を設計・製作しなければいけません。
治具の設計・製作時に考慮すべき主なポイントを4つお伝えします。
- 1.治具の目的を明確にする
- 2.位置決めとクランプをしっかり設計する
- 3.必要な精度や能力を確保出来る構造とする
- 4.使いやすさと保全性を考慮した構造とする
1.治具の目的を明確にする
どの作業を効率化したいのか、あるいはどの工程を簡略化したいのか、治具の目的を明確にします。治具の目的を明確にすることで、必要な機能や構成が決まり適切な治具を製作できるためです。
2.位置決めとクランプをしっかり設計する
治具を使用する際の「位置決め」とは、ワークを所定の位置に配置することをいいます。ワークにおける特定の位置を加工したり検査するためには欠かせない概念であり、治具にはワークの位置を保証する機構や構造が求められます。
また、作業中の外力によって動かないよう、ワークをしっかりと保持するためには、クランプの設計も重要です。ワークは立方体や直方体とも限らず、丸ものであったり複雑な形状をしている場合もあります。そのため、どのようなワークであっても安定的に保持できるクランプ構造が必要です。また、クランプ力が強すぎるとワークが変形したり圧痕が残ったりしてしまうため、クランプの素材選定や構造には最新の注意が必要です。
3.必要な精度や能力を確保できる構造とする
「1.治具の目的を明確にする」で明確にした目的を達成できる精度(平面精度・穴位置精度など)や能力(クランプ力など)を確保できる構造設計や部品選定を行いましょう。
4.使いやすさと保全性を考慮した構造とする
現場の作業者の使用感を意識して使いやすい治具構造にします。治具の製作目的は作業を効率化させることなので、使いづらい治具では意味がないためです。使いやすい治具はタクトを向上させるとともに、無用なトラブルを回避することにもつながります。
また、保全性の高い治具構造とすることで、期間安定的に使用できるようになります。
まとめ
治具(ジグ/jig)とは、機械加工の際などにワークを固定・保持するための補助装置です。検査や測定、めっきなどの際に用いるなど、製造現場のあらゆる場面で欠かせません。
治具を用いることで、作業者のスキルに寄らず品質や精度が安定し、手作業で行うよりもはるかに量産性が向上します。
治具の精度は、ワークの加工精度に直結します。そのためすぐれた治具を製作するためには、治具の目的を明確にし、位置決めとクランプを熟考する必要があります。また、作業工程やワーク、使用工具を把握したうえで設計するようにします。
FS WORKSの治具技術
不二工機製造(FS WORKS)では、構想から設計、製作、ASSY(組付け)まで治具の一貫製作に対応しており、短納期・高品質な治具を提供いたします。ISO基準にもとづく厳しい管理・検査体制のもと、図面要求精度通りの製品を実現することで、分解・組付けの再現性が高く、生産性の高い治具を実現します。
治具製品には1年間の保証期間を付与し、使用後の故障・不具合や消耗品の入れ替えにも対応いたします。治具の製作や改善をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
- 2023年11月24日ブログ治具とは何か?定義や種類、役割、メリット、選び方・製作事例を紹介
- 2023年11月21日ブログ金型部品とは?種類の解説から標準品・特注品の選定・製作・補修のポイントまで
- 2023年9月1日NEWSホームページリニューアルのお知らせ