高精度な自動車部品 金型の要件とは?500型以上の設計・製作実績をもとに解説
3万点以上といわれる自動車部品のなかには、走行や安全性に関わるため精度要求の厳しい部品も多くあります。自動車部品の製造には金型がよく用いられますが、高精度な自動車部品を製造するためには、高精度な金型の設計・製作が必要です。
不二工機製造(FS WORKS)は、静岡県浜松市を中心に静岡・愛知ほか多くのお客様の自動車部品向け精密プレス金型 を設計・製作してきました。1966年(昭和41年)の創業から培ってきた500型以上の実績をもとに、高精度な自動車部品金型の要件を解説します。
高精度な自動車部品の金型製作に必要な要素
乗る人の命に関わるため、重要保安部品を中心に自動車の部品は厳しい精度を求められます。自動車部品を大量生産するためにプレス加工が多用されますので、高精度な製品を叶えるためには高精度な金型が必要になります。
では一体、高精度な自動車部品を実現するプレス金型には、どのような要素が求められるでしょうか?抜き加工を例に、以下にポイントを解説します。
- 1.クリアランスの設定が適切であること
- 2.均一なクリアランスを実現させること
- 3.均一なクリアランスを保つこと(剛性の高い金型と荷重バランスの取れたレイアウトで加工時のクリアランスの変化を抑える)
- 4.均一なクリアランスを保つこと(摩耗によるクリアランスの変化を抑える)
1.クリアランスの設定が適切であること
クリアランスとは、金型を構成するパンチとダイとの間に必要な「隙間」のことです。せん断加工においてクリアランスは、製品の切口面形状を支配するため最も重要な因子となります。
ワークの材質と硬さ、板厚だけでなく、製品形状、加工法や加工速度までを加味し、適切なクリアランスを設定する必要があります。
クリアランスは製品形状のみならず工具寿命にも大きな影響をもたらすため、金型の設計段階で最適なクリアランスを設定することが重要です。
自動車業界でよく用いられ、平滑で破断の無い100%せん断を要求される「ファインブランキング」では、金型のパンチ・ダイのクリアランスを極小(板厚の0.5%程度)にします。ファインブランキングでは金型のクリアランスが加工の成否を分けるので、その設定はより重要となります。
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2.均一なクリアランスを実現すること
高精度な自動車部品を実現するためには、金型において均一なクリアランスを実現することも必要です。クリアランスの設定が適切であっても、せん断部全周のクリアランスを均一にできなければ、製品寸法にバラツキが出たり、バリ・カエリが生じたりするためです。
とくにクリアランスが小さい部分は刃先に作用する応力が高くなり、せん断面も長くなるため、その部分の摩耗が大きくなってしまいます。
均一なクリアランスを決める要因
- ●ストリッパーとパンチのクリアランス
- ●ダイ、ストリッパー、パンチの加工精度
- ●ダイホルダー、ストリッパープレートの加工精度
- ●ダイ、ストリッパーの各プレートへの組付け精度
- ●パンチのパンチプレートへの組付け精度
- ●ガイドポスト、サブガイドの精度
- ●ストリッパープレートとサブガイドの組立て精度
- ●ガイドブッシュと上下ダイセットの組立て精度
また、図物一致の金型部品を作ることが重要になります。部品を図面の要求精度どおりに製作できるかどうかが、ワークの品質だけでなく金型寿命を決めるためです。
図物一致な金型部品を作るためには、加工条件を熟知していることも必要です。
たとえば、ミクロン台の輪郭度を出すためのワイヤー放電加工では、金型部品の要求形状精度や面粗度によって加工条件は変わります。ミクロン単位の加工を行うためには、取り量や加工速度、セカンドカット回数などをち密に設定しなければいけません。
また、熱処理歪を抑えるための粗取り加工や歪取焼トン、仕上げ前寸法の設定など、工程設計も重要になります。
3.均一なクリアランスを保つこと(剛性の高い金型と荷重バランスの取れたレイアウトで加工時のクリアランスの変化を抑える)
プレス成型時の変化を加味し、均一なクリアランスを保つ設計が必要です。プレス加工では金型は鉛直方向の荷重だけでなく、荷重中心がずれることで偏芯荷重も受けます。そのため、無負荷の状態で精度が出ている金型でも、実際の加工ではタワミや芯ずれによりクリアランスの変化や偏りが生じてしまうためです。
クリアランスの変化を最小に抑えるためには高精度・高剛性プレス機を選定するとともに、タワミや偏芯荷重に強い構造や荷重バランスの取れたレイアウトの金型が必要となります。
被加工材、板厚、製品形状やプレス機仕様に合った合理的な金型の設計が重要となります。
4.均一なクリアランスを保つこと(摩耗によるクリアランスの変化を抑える)
パンチ、ダイの摩耗によりクリアランスの変化することは避けられないので、摩耗の進行を抑えることが重要です。
摩耗現象はひっかき摩耗と凝着摩耗に分類されますが、ひっかき摩耗は硬質の摩耗粉などにより金型表面が機械的に削り取られる摩耗です。対策としては型材の硬度を高めることや、炭化物を多く含んだ鋼種への変更があげられます。
凝着摩耗はワークの一部が金型に凝着し、その箇所が剥離する現象です。対策としては金型表面とワークの摩擦係数を下げることが重要で、潤滑剤の均一塗布や潤滑切れを起こさない金型設計が重要です。またTin、Ticnなどの表面処理も非常に有効です。
型彫り放電加工やワイヤーカット放電加工の変質層や切削加工のツールマークは早期割れの原因となるので、ミガキ、エアロラップなどで除去します。金型設計では摩耗を考慮し、ダイは公差下限、パンチは公差上限を狙うのが一般的です。
高精度な自動車部品金型の製作例
適切なクリアランスの設定と金型の設計・製作技術により、プレス加工で精密部品を製作することができます。高精度なファインブランキング金型で加工された、平滑なせん断面と100分台の寸法精度を有する精密部品の例をご紹介します。
不二工機製造(FS WORKS)での加工事例:ギヤ、スタータ
ファインブランキング単発金型でギヤ、内径インボリュートスプライン、軽量孔8箇所、絞りを1工程で加工しました。
材質:S45C、板厚:4.0、ギヤモジュール:1.75、マタギ歯厚:n=6 0~0.07
歯先の振れ:0.3以下
後加工:歯先のチャンファー加工 → 歯先の高周波焼入れ焼き戻し
難加工のギヤ部品です。せん断面の確保と型寿命のため、刃先および刃底でクリアランスを変えています。絞り加工とせん断加工を一工程で行うため、金型剛性に留意し設計しました。
高精度な自動車部品向け金型におけるメーカーの選定・発注ポイント
高精度な自動車部品金型を外注する際は、メーカーを吟味する必要があります。優れた協力メーカーを選定し、発注を成功させるためのポイントを4つお伝えします。
- ●一貫製作に対応している外注先を見つけること
- ●金型部品の材質、熱処理、表面処理の適切な選定ができること
- ●精密加工を可能にする設計および設備力
- ●充実した品質保証体制(品質認証、測定設備、測定スキル)
一貫製作に対応している外注先を見つけること
設計から製作、金型の組付け(ASSY)まで、一貫製作に対応している外注先を見つけることが重要です。前後工程への理解があるため、短納期で組付け精度の高い金型を製作することができます。
金型部品の材質、熱処理、表面処理の適切な選定ができること
自動車部品向けの高精度な金型を実現するためには、金型材、熱処理、表面処理の知識も欠かせません。被加工材(炭素の含有量や板厚など)と加工条件に応じ、素材や処理を適切に選定することが必要になります。
被加工材と同様の塑性を持つ素材で金型部品を製作してしまい、被加工材と金型部品が凝着してしまったというケースも耳にします。より最適な素材の選定や処理加工に応じてもらえるメーカーであれば万全です。
精密加工を可能にする設計および設備力
高精度な金型を実現するためには、設計力と設備力もポイントで、3D設計に対応していることが基本となります。高精度な金型部品を製作できる設備があることも重要です。マシニングセンタ、5軸加工機、放電加工機をはじめ、精度要求に応えられる保有設備があるかをホームページなどから確認するようにしましょう。
充実した品質保証体制(品質認証、測定設備、測定スキル)
高精度な自動車部品金型を発注するのであれば、発注先の品質保証体制が整っているかどうかも確認が必要です。主に、測定設備、品質認証の取得有無という観点から判断できます。
汎用的な検査に加えて三次元測定にも対応し、必要な部品には検査票を付けて納品してくれるメーカーであれば、図面要求を満たせるメーカーであると信頼を持てます。
ISO9100の取得有無によっても、品質保証体制が文書化・運用されているかが分かります。納品された金型に万が一のことがあった際を考慮して、トレーサビリティが取れることも重要です。
まとめ
走行性や安全性に関わるような高精度な自動車部品を製造するためには、高精度な金型が必要です。そのための金型の設計・製作には、「均一なクリアランスを設定すること」「均一なクリアランスを実現させること」「均一なクリアランスを保つこと」が求められます。
優れた協力メーカーを選定し、高精度な自動車部品の金型の発注を成功させるためには、いくつかのチェックポイントがあります。一貫製作に対応しており、材質の選定・変更にも対応できること。そして、精密加工を実現できる設計力と設備力を兼ね備え、充実した品質保証体制があることも重要です。
不二工機製造(FS WORKS)の精密プレス金型の技術
不二工機製造(FS WORKS)は、1966年の創業以来、精度要求の厳しい自動車業界で500型以上の高精度な金型を納めてきました。
設計から製作、組付け(ASSY)まで一貫製作に対応し、図物一致で組み付け精度の高い金型部品および金型をご提供しています。ISO9100を取得しており、三次元測定やトレーサビリティにも対応が可能です。
高精度な自動車部品 金型の製作をご支援しますので、お気軽にお問合せください。
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この記事を書いた人
- 2024年3月1日ブログ静岡県浜松市で精密部品の放電加工を受託、電極設計から一貫製作
- 2024年2月29日ブログ三次元測定機をはじめとする万全の品質保証体制、ISO9001・JIS Q 9100にも準拠
- 2024年2月12日ブログ歯車検査とは?主要項目と検査手法、歯車検査を効率化するためのノウハウを解説
- 2024年1月22日ブログ板鍛造とは?板金や冷間鍛造との違いや定義、メリット、製品事例を紹介